進行性核上性麻痺とは、脳の基底核・脳幹・小脳といった特定部位の神経細胞が減少してしまい、転びやすい、下の方が見にくい、認知症、しゃべりにくい、飲み込みにくいといった症状が現れる病気です。発病初期には動作緩慢や歩行障害などがあらわれるためパーキンソン病との区別がつきにくい事があります。
この病気の有病率は10万人に11.4人程度と推測されています。男性に多い傾向があり、発症年齢は40代以降がほとんどで、大部分の人は50代~70代に発症します。
進行性核上性麻痺の原因
脳内の特定の部位 (黒質、中脳上丘、淡蒼球、視床下核、小脳歯状核など) の神経細胞が減少してしまい神経原線維変化という異常構造が出現します。神経細胞内のみでなく、グリア細胞内にも異常構造が出現します。これらは異常にリン酸化したタウという構造物であることがわかっています。しかしながら、何故このような病変が起こってくるかという原因は現在でも突き止められていません。
進行性核上性麻痺の症状
運動障害(転びやすさ)、眼球運動障害、構音障害、嚥下障害、認知症が主な臨床症状となります。
運動障害
すぐ転ぶという状況がまず最初に気づかれる特徴的な症状です。
発症して1年以内に転倒を繰り返すようになる患者が半数を超えるといわれています。姿勢が不安定になり、危険に対する感覚も鈍るため転倒を繰り返してしまいます。さらに、転倒した場合に手で防御するという反応が起きにくくなっているため、顔面や頭部に大けがをする事があります。
歩行は不安定で、パーキンソン病によく似た歩行異常も出現する事があります。
病状が進行するに従い徐々に動作が緩慢になり手足の関節が固くなり、最終的には寝たきりになります。
眼球運動障害
上下方向、特に下向きの随意的眼球運動が障害されるために、下方に視線を移すことが困難になります。
眼球運動障害はこの疾患の特徴ですが、発症初期には症状が見られず、発症後2~3年たってから出現することが多いようです。
病気の進行に従って左右方向に目を動かすことも制限されるようになり、最後には眼球は正中位で固定して動かなくなってしまいます。
構音障害、嚥下障害
進行すると聞き取りにくいしゃべり方(構音障害)や、むせやすぐ飲み込みにくい(嚥下障害)といった症状が徐々に出現します。
初期には飲み込まないで、食物をどんどん詰め込んでしまうことがあります。中期以降にはうまく飲み込めないため気管に食物が入ってしまう事から嚥下性肺炎が合併します。
口からの食物の摂取が困難となった場合には経管栄養、胃瘻が必要となります。
認知症
認知症を合併することがあります。アルツハイマー型認知症と異なり、判断力は低下しますが見当識障害や物忘れはあっても比較的軽症のが特徴です。
質問に対しすぐに言葉が出ないため、答え始めるまでに時間がかかる場合があります。
病気に対する深刻感が乏しく、屈託がなく多幸的である場合が多いようです。
進行性核上性麻痺の治療
残念ながら根本的な原因治療は確立されていません。
パーキンソン病に対する薬剤や抗うつ剤が使用される事もあるようですが、多くの場合効果は一時的か無効となっています。
筋力の維持やバランスの訓練としてのリハビリテーションが行われます。筋力の衰えを防ぎ、転倒を防止するためにも重要です。