後見制度支援信託で認知症高齢者の財産を守る

認知症高齢者の財産を守るための制度

認知症などで判断力が衰えた高齢者らの財産を守る「成年後見制度」に信託契約を利用した新しい仕組みが導入されます。後見制度支援信託といわれる仕組みがそれです。

この仕組みは、社団法人信託協会と最高裁判所事務総局家庭局、法務省民事局との間で検討を行い、「後見制度支援信託」のしくみを取りまとめましたもので、この2012年4月より取り扱い開始となります。

これらの仕組みが考案された背景は以下に詳しく引用してあります。

簡単に言えば、

  • 後見対象者の財産の散逸を防ぐこと
  • 財産の管理費用の低コスト化

を目指していると思われます。

1. 経緯 成年後見開始事件数は高齢化の進展や介護保険制度の導入とあいまって急増しており、平成21年の開始事件数は22,983件と、制度開始当初(平成12 年)の4倍超となっております。他方で、件数の増加に伴って、不正事例が発生していることも踏まえて、ご本人の財産の管理・保護のあり方を含め、適切な後見事務を確保するために信託を利用することができないかという問題意識から、最高裁判所事務総局家庭局の提案で、後見制度における信託制度の活用について法務省民事局を含めた三者で勉強会を開催し、信託制度の機能を活用して後見制度を財産管理面で支援するものとして「後見制度支援信託」のしくみを取りまとめ、本年4月から開始することとなりました。

2.概要 後見制度支援信託とは、後見制度をご本人の財産管理面でバックアップするための信託であり、後見人が、家庭裁判所の発行する「指示書」にもとづき、ご本人の現金や預貯金に関して、信託を活用して管理することができるしくみになっています。

この信託を利用することで、ご本人の財産を安全・確実に保護するとともに、後見人の負担を軽減することも可能となります。詳しくは、リーフレット「後見制度支援信託」をご覧ください。(社団法人信託協会のホームページより)

後見対象者である高齢者らの金融資産のうち、

  • 当面使う必要のない大きな資産は、元本が保証される信託契約を結んで信託銀行に預け
  • 日常的に使用するであろう少額のみを一般口座で親族などの後見人が管理する

と言うことになります。

例えば、住宅リフォームなどで、大きな支出が必要になった場合、後見人が家庭裁判所に申請してチェックを受けます。そして、家庭裁判所が本人のための支出だと認めれば「指示書」を発行して信託財産からの支出を認めるという手順になります。

後見制度支援信託のしくみ

この場合の後見人には、親族の他に弁護士や司法書士などの第三者を選任することができます。

従来では、大きな資産がある場合は、その専門性を重要視して弁護士や司法書士などを選任するケースが多く、その報酬も高くなりがちで一部富裕層以外は利用しにくいとされていました。

その一方、親族による後見では、後見対象者である高齢者の財産が使い込まれてしまうケースがたびたび起こっており、家庭裁判所によるチェックも十分とは言えませんでした。

この後見制度支援信託を使うことにより、引用2にある

この信託を利用することで、ご本人の財産を安全・確実に保護するとともに、後見人の負担を軽減することも可能となります。

が現実のものになると期待されています。

後見制度支援信託を利用できる人

法定成年後見制度および未成年後見制度の被後見人の方が対象となります。
法定成年後見制度の被保佐人・被補助人の方や、任意後見制度のご本人はご利用することができません。

契約締結手続はどうするの?

まず、ご本人のために家庭裁判所へ後見開始(または未成年後見人選任)の申立てがされることが前提となります。

家庭裁判所は申立てがあった場合、後見制度支援信託の利用に適していると判断したときに、後見制度支援信託を紹介したうえでご利用を検討していただくことになります。

家庭裁判所が後見制度支援信託制度の利用を指示するわけではないことに注意。あくまで後見人の判断によります。

後見制度支援信託を利用することになった場合、家庭裁判所がその旨の指示書を後見人に対して発行しますので、後見人の方はその指示書を後見制度支援信託取扱い信託銀行等にご提示のうえ、契約の締結についてご相談することになります。

後見制度支援信託利用までの流れ

信託できる財産

後見制度支援信託では、ご本人の財産を安定的に運用するために、元本補てん付の指定金銭信託を利用しますので、信託することができるのは金銭のみであり、後見制度支援信託で管理できる財産は金銭に限定されます。

この信託を扱うのは、2017年4月3日においては

  • 三菱UFJ信託銀行
  • 三井住友信託銀行
  • みずほ銀行
  • りそな銀行
  • 千葉銀行
  • 中国銀行

となります。
各信託銀行・各銀行の窓口で受け付ける他、郵送でも受け付けるそうです。

それぞれに、最低受託額や信託報酬・解約手数料など、信託にかかる経費が異なるため事前に相談し確認をしておく必要があります。

後見制度支援信託のメリット・デメリット

いいことずくめのような後見制度支援信託ですが、デメリットもありますので利用を考える場合はよく検討する必要がありそうです。

後見制度支援信託のメリット

本人の財産を信託銀行が管理している

後見制度支援信託を利用した場合、日常生活で使用する以外の本人の財産は信託銀行が管理することで財産を安全に管理することができます。

また、本人の財産が多額の場合、それを後見人が管理していくのは大変な負担となりますが、本制度を利用することで管理負担を軽減することができます。

元本保証

後見制度支援信託により信託銀行に預けられた財産は元本保証がされており、目減りのリクスがありません。

預金保険制度の保護対象となる

金融機関が破綻した場合でも後見制度支援信託による信託財産は預金保険制度の保護対象に該当しますので、預けた信託銀行が万一破綻した場合でも本人の財産は保護されます。

重要な手続きには家庭裁判所が関わります。

信託銀行が次の手続きを行うには家庭裁判所の指示が必要となります。

  1. 信託契約の締結・解除・変更
  2. 定期交付金額の変更
  3. 一時金の交付
  4. 追加信託

信託に関する重要な手続きには家庭裁判所の指示書が必要とされ、勝手に変更される恐れがないため本人の財産を安全に管理できます。

後見制度支援信託のデメリット

信託できる財産は金銭のみ

後見制度支援信託において、信託できる財産は金銭のみです。
金銭以外の財産(不動産・有価証券など)を処分して本制度を利用する場合は、前もって家庭裁判所の許可を得る必要があります。

保佐類型・補助類型・任意後見では利用できない

後見制度支援信託の対象は。法定後年制度により本人が後見開始の審判を受けた場合に限ります。
保佐類型・補助類型・任意後見では本制度を利用することはできません。

報酬の支払いが発生する

後見制度支援信託を利用する場合、信託契約の締結に関わった専門職後見人に対し報酬を支払わなければなりません。また、信託銀行への報酬として、管理報酬と運用報酬の2種類がありますが、この報酬も本人の財産から支出されます。

迅速性に欠ける

信託銀行と信託契約を締結した後は、信託財産については後見人といえども自由に使用できなくなります。
契約の変更・解除・金銭の支出などに家庭裁判所が介入することにより、手続きに時間と手間がかかります。

成年後見制度とは?

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